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響和堂Blog 『 湧玉 wakutama 』

源氏物語

浩子です。
先日、瀬戸内寂聴さんの新刊「寂聴と読む源氏物語」(講談社)
の発売記念講演会に行ってきました。
響和堂の新春プレゼント企画として、多数の皆様にお申し込みを
いただき、寒い中お越しいただきまして、本当にありがとうございました。

寂聴さんは、今年、数えで88才なのだそうです。
一時間半の講演会の間、寂聴さんはずっと立ちっぱなし。
年齢を配慮して、ステージ中央に向かうとき、手を貸しましょうか?
と言われたり、椅子を用意されたり、ということもよくあるそうですが、
1人でさっさっさと歩いて演台に着くし、椅子も使わないのだとか。
そして、立って話すことで、下腹に力が入って大きな声が出る、
のだそうです。
その立ち姿は、きりっと凛々しくて、思わずこちらも背筋がすっと
伸びました。

昨年2008年は、源氏物語千年紀、としてメディアでも多数紹介され
ました。
その千年紀事業として京都府、市を中心として、様々なイベントが
展開され、千年紀委員として参加されていた寂聴さんも、源氏物語を
広く紹介されるために、全国を回られて講演会を行われています。
(今年3月まで続くそうです。)
ところで、どうして千年?とわかったのでしょうか?
それは、源氏物語が記録のうえで確認されるときから、ちょうど一千年、
ということなのだそうです。
紫式部日記(随筆)の中で、寛弘5年(1008年)11月1日の条に、「若紫」
や「源氏」などの記述があり、この時点で源氏物語が読まれていたことが
確認できる、ということだとか。

だけど、昨年以前はというと、寂聴さんの講演会で、「源氏物語や紫式部
のことを知らない人はいますか?」と尋ねると、かなりの人の手が上がって
いたそうです。
なぜ、日本の文化遺産といってもよい源氏物語を、日本人でありながら
ほとんどが知らないままきてしまったのか?
その理由としては様々あるそうですが、とくに天皇制への配慮などが考え
られ(天皇家の中の恋愛や不倫などが題材のため)、そのため、学校の
教科書では、当たり障りのない面白くないところだけが載せられたのだとか。
確か、中学校の古典の教科書に載っていたのは、桐壺と若紫だけだった
記憶があります。
どろどろ部分については、高校時代に「あさきゆめみし」(漫画)で
学んだような…(笑)

そのようなわけで、日本国内よりも、源氏物語ブームとして先に火が
ついたのは海外でした。
英人のアーサー・ウェイリー(東洋学研究者)が原文を読んで感銘を受け、
戦後すぐ英訳したものが世界各国に広まって、他国でも続々と翻訳、
出版されたそうです。翻訳はすでに二百カ国を超えているとか。
外国で源氏物語が高く評価をされているとは、初めて知りました。

面白いエピソードとして、寂聴さんの現代語訳が出版された十年前に、
外国人記者クラブで質疑を受けた時の話をされました。
質問をした外国人記者は、日本に赴任が決まったとき、上司から
源氏物語を読んで行くように、これを読まなければ日本人の感性、
思想がわからないから、と言われたそうです。
他の複数の記者も同様だったとか。
なのに、日本に来て日本人記者とその話をすると、誰も読んでいない。
なぜ日本人は読んでいないのか?と聴かれて、寂聴さんはとても
恥ずかしい思いをされたそうです。

源氏物語が書かれた平安時代中期の頃、その時代、世界中で誰も
このような長編恋愛小説は書いていなかった。
シェークスピアなどもはるか後のことで、日本という小さな国の
しかも女性の手によって書かれた素晴らしい文学、財産の存在を、
肝心の日本人が知らないというのは恥ではないかと思う。
日本の文化は、素晴らしいものを持っていることを知り、誇りを
取り戻してほしい、と。

寂聴さんが現代語訳に取り掛かったのは70歳のとき、そして6年を
かけて書き上げたそうです。
自分が現代語訳を出したあとも、若い人が出していて、さらに現代的な
訳になっていてなかなか面白いし、そのように新しい訳の源氏物語が
どんどん出たらよいと思う、でも、一番良いのは、原文…最後には原文
を読んでほしい。そのための橋渡しとして、現代語訳を読んでもらえればと思う。
とおっしゃいました。

なぜ、源氏物語なのか?
お話をうかがって、素直に思えました。
千年前から存在する素晴らしい文学、文化を日本人は持っていること、
世界に誇れるものであること。このことを胸に刻もう。
とても大切なことを示してくださる寂聴さんのお話、情熱と愛情に触れ
させていただいたと感じました。

よーし、源氏物語、じっくり読んでみよう!
まずは寂聴さんの現代語訳(講談社から全10巻の文庫本刊行)から…。 

講演のあと、質疑応答時間が設けられ、その中でこのようなお話が。
暗いニュースが多い今の時代、一人一人がどのような心がけを持てば
よいか?という質問に、
日本人は戦後、物が大事、お金さえあればよい、自分が幸せであればよい、
というようになってしまった。
だけど、もともとの日本人というのはもっと高尚なんです。
人の幸せを先に考える、自分のことよりも人のために…という性質なんです。
その「忘己利他」の精神を皆が持てば、変わっていくと思います。

人はなぜ生まれてきたのか?
自分で決めて生まれてきた人などいないはず、
「気がついたら、生まれさせられていた」のです。
では何のために?
それは、自分の存在によって、自分以外の人を、温めて、幸せにするため。

生・寂聴さんは、やっぱりすごかった、です。

うーん、法話集DVDも、欲しい・・・。 
by kyowado | 2009-01-16 12:00 | いろいろ…観る