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響和堂Blog 『 湧玉 wakutama 』

雛人形

昨日の「雛祭りのはじまり」の次は、雛人形についてのおはなし。

もともとは男女一対の内裏雛だけだったものが、3段・5段・7段と次第に豪華
な段飾りになっていったのは、江戸時代、将軍の姫君へのプレゼントに、大名達
が競って贅を尽くした雛人形を作らせたこともあります。
三代将軍・徳川家光の一番最初に生まれた姫君、千代姫様は3月5日生まれでした。
誕生のお祝いと雛祭りの時期が重なったことから、諸国大名達は雛人形をお祝いと
してプレゼントしたのです。それ以来、女の子が生まれる度に、雛人形を贈ると
いうことが盛んに行われるようになったとか。
11代将軍の家斉(いえなり)は、徳川家きっての絶倫将軍として有名ですが、
たくさんの側室に産ませた女の子は、なんと27人!あちこちから立派な雛人形が
プレゼントされて、ひな祭りには江戸城内が雛人形だらけになったそうです。
(ちなみに、男の子の数は28人!…端午の節句は、鎧甲などの五月人形で溢れ
かえっていたことでしょう。)
雛人形_c0173978_11223865.jpg

さて、雛人形の段飾りについて。
一段目のお雛様、雛祭りで一番歌われている「うれしいひなまつり」の歌詞の中で、
「 お内裏様とお雛様〜♪」と歌われるので、男雛がお内裏様で、女雛をお雛様と
呼ぶように勘違いされているようですが、もともと「内裏」というのは天皇のおす
まいである御所のことですから、天皇・皇后の姿を現した男雛と女雛、両方を内裏
雛といいます。(人形メーカーでは、内裏雛を天皇・皇后ではなく「身分の高い
貴族の方」として、武家や庶民の憧れの存在の象徴と説明しているようです。)

この内裏雛の並び方は、日本では古くから左側の方が位が上とされていたので、もと
もとは向かって右に天皇の男雛、向かって左に皇后の女雛という配置でした。これが、
大正天皇の即位の時に、西洋式の国際儀礼にならって天皇陛下が左、皇后陛下が右に
立たれたのをまねて、一般的に男雛が左、女雛が右、と配置が変えられたそうです。
古いしきたりを重んじる京都などでは、男雛を右に置くことが今でも続けられてお
り、どちらが正しいかが決まっているわけではありません。 

さて、意外と知られていないのですが、この段飾りに登場する人物たちには、江戸
時代から続く、それぞれ決められたキャラクターがあります。
まず二段目の「三人官女」。
この3人はお内裏様にお仕えする女官たちで、中央に座ってお酒を飲む杯を持って
いるのが女官長です。この女官は、眉毛をそって、お歯黒をしているので、本来は
既婚者を示しますが、女官は側室候補として独身と定められていたので、年長者と
いうことで、そういうお化粧をしていると思われます。向かって左の女官は、お酒
の入った銚子をもって口を開けており、向かって右の女官は、お酒を注ぐ銚子を
もって、口を閉じています。
三段目の五人囃子は、向かって左から太鼓・大鼓(おおかわ)・小鼓・笛・謡を担当
しています。
四段目の随身は、お内裏様を警護する役人で、向かって左の若者が右大臣、向かって
右側の方が位の高い左大臣で、髭を生やした老人であり、それぞれ弓矢を持っています。
五段目の三人の仕丁(じちょう)は、宮中で雑用をする人達です。向かって左から
「怒り上戸・泣き上戸・笑い上戸」の三人上戸ともいい、帽子をかける台笠、靴を
のせる沓台、そして立傘をもち、出掛けるときの様子を表しているということです。
このように、それぞれのお人形のキャラクター付けが明確に伝えられている、という
のも大変興味深く、大事に守り伝えられてきた象徴性を感じます。

そして、人形以外に飾られているもの。
雛祭りというと、菱餅を飾って食べるわけですが、菱餅は、赤い餅に「くちなし」
の毒消しの働き、白い餅には「けし」の血圧を下げる働き、そして緑の餅は血を
つくる働きのある「ヨモギ」の葉っぱが使われており、健康を祈る節句にふさわし
い健康食品として供えられていました。菱餅の形は、心臓をかたどったものだとも
言われています。
5段目に置かれているの樹木は、京都御所に植えられている橘の木と桜の木で、
それぞれ「右近の橘・左近の桜」と呼ばれているものを、段飾りに加えて、御所の
お庭を表しています。
そして、6段目7段目に並べられているのは、嫁入り道具の調度品や御所車など。
将軍家や大名の姫君は、初めての節句に雛人形を贈られる以外に、お嫁入りする
ときにも、新たに雛道具を一式新調して嫁ぎ先に持って行きました。これは、実際
の嫁入り道具を製作するためのサンプル用として、精巧なミニチュア版が作られた
のだそうです。贅を尽くしてたくさんの道具が作られ、徳川家の宮家のそれぞれの
家紋など、自分の家の家紋と嫁ぎ先の家紋が入れられた雛道具もありました。

このように、子どもが病気や災難に遭わず健やかに成長しますように、そして幸せ
な結婚ができますように、という親の願いは、こうしたいろいろな意味あいと
ストーリーをもつ雛人形に凝縮されて、長い年月受け継がれてきました。
この親の願いというのは世界中のどこの国にも共通していることでしょうが、子ども
のための、これほど芸術性の高い美しいお祭りは、どこにも例をみない、実に素晴ら
しい文化です。
神世の時代に遡る起源と、祓いの儀式と、男女・親子の絆、職人の技、豊かな感性…
これらがミックスされた雛祭り。決して失ってはいけない和の心、和の文化が、そこ
にあるのです。

by Emi Nakamura
by kyowado | 2009-03-05 11:35 | あれこれ…想う