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響和堂Blog 『 湧玉 wakutama 』

ひとり芝居 「 土佐源氏 」

オペラ・歌舞伎・ミュージカル・商業演劇・小劇場 … 私は演劇が大好きです。
これまで一番回数多く観ている演目は、ヴェルディのオペラ「 椿姫 」。
来日公演及びDVDも含めると、ルネ・フレミング、アンジェラ・ゲオルギュー、
アンナ・ネトレプコ、エディタ・グルベローヴァ等々、世界のプリマドンナ演じる
ヴィオレッタを数多く観てきました。
しかし、同じ役者の出演する芝居で見続けているものといえば、坂本長利(さかも
とながとし)さんのひとり芝居 「 土佐源氏 」 です。
初めて観てから、かれこれ25年になりますが、坂本さんはなんと昭和42年からこれ
を演じていらっしゃいます。
ひとり芝居 「 土佐源氏 」_c0173978_2056577.jpg

10月3日(土)14:00〜、池尻大橋にあるカフェ&ギャラリー「 まんまるの木 」
にて。1,119回目の公演を観に行きました。
出雲出身の坂本さんは、今年80歳。
テレビドラマ「 北の国から'87 初恋 」や、「 Dr.コトー診療所 」などにも出て
いらしたので、あぁ!と思われる方もいらっしゃるでしょう。
紀伊國屋演劇賞特別賞も受賞され、シェークスピア劇等でも多くの演出家から信頼の
厚い、素晴らしい役者さんです。
親しくさせていただいているので、この20年以上出演されたものはほとんど観て
いますが、「 土佐源氏 」を観るのは久しぶりで主人公のお爺さんと同じ歳になった
坂本さんの演技を、しかと目に焼き付けたいと思いました。

「 土佐源氏 」は民俗学者・宮本常一氏が、土佐檮原(ゆすはら)村の橋の下に
いた老人から聞いた話をもとにして書かれた物語。極道の末に盲目の乞食に身を
落とした元馬喰(ばくろう・牛買い)の一代記、色懺悔です。
素朴な語り口の中に、凄絶な老人の生き様と、男女の機微、明かすことのできぬ
秘め事を抱えた女の切なさ、その女を想う男の優しさがあふれている作品。
新宿にあったストリップ小屋の幕間狂言に始まり、「 出前芝居 」と称して、全国
各地を巡って演じ続けてきたひとり芝居なのです。呼ばれれば、たった一人の
観客でも、家の中だろうが、河原だろうが、どこへでも行って芝居をうちます。
エジンバラ国際演劇祭で絶賛され、ポーランド・スウェーデン・ドイツ・オランダ・
ペルー・デンマーク・ブラジル等々海外でも高い評価を受けました。

「 惚れてかよえばよぉ〜  千里(せんり)もぉ〜 一里(いちり)〜 」
劇中歌う爺さんの声。
なんと、力が抜けて、軽く、しかし心にズシンと響いてきます。
そして愛した女達の嬉しいような泣きたいような横顔。
あぁ、坂本長利とはなんという役者なのでしょう。
ラストの激しい吹雪にあおられながら、まとったゴザが吹き飛ばされぬよう、
ゆっくりと小屋に帰っていくシーンは圧巻。とても80歳の脚力とは思えません。

「 おっ! 映美ちゃん、ひさしぶりっ!」
乞食のメイクをとった坂本さんは、とても艶やかなダンディな方。
「 お願いだから、お願いだから、ずっと元気で、ずっと土佐源氏を演じてくだ
 さいね。坂本さん以外に土佐源氏はいないから…。」


by Emi Nakamura
by kyowado | 2009-10-09 23:23 | Live