2008年 12月 01日
熊手から寒天まで
大酉祭は、例年11月の酉の日に行われる、各地の鷲神社(おおとりじんじゃ)の
祭礼。日本武尊(やまとたけるのみこと)を祀り、武運長久、開運、商売繁盛の
神として信仰されるこの神社において、酉の市が立ち「熊手」や「切り山椒」を
はじめとする縁起物を買う風習は、関東地方特有の年中行事である。
私の勤務先の近くには目黒・大鳥神社があり、毎年ここの酉の市で神社が授与す
る「熊手守り」を購入して、会社と支店、自宅に飾っている。

浅草・鷲神社の社伝によると、日本武尊が鷲神社に戦勝のお礼参りをしたのが
11月の酉の日であり、その際、社前の松に武具の熊手を立て掛けたことから、
大酉祭を行い、熊手を縁起物とするとしているそうだ。
熊手は、鷲が獲物をわしづかみすることになぞらえ、その爪を模したともいわれ、
福徳をかき集める、鷲づかむという意味が込められている。

東京では、浅草・鷲神社をはじめ、新宿・花園神社などが、場所柄大変な賑わい
を見せているが、私は、このこじんまりとした地元のお酉さまに欠かさず行く
ことにしている。会社や商店の経営者が、「値引きとご祝儀」の商談を交わし
た後、威勢のいい手締めを打たれながら、熊手を買っていく一連の流れは、
見ているだけで景気がよくなる感じがして、気持ちいい。粋な江戸情緒である。
目黒・大鳥神社は、日本武尊だけでなく、国之常立神(くにのとこたちのかみ)
も祀られていると、この日初めて気がついた。確か、根源神とされている神さま
だ。先に奉納演奏をした水天宮に祀られている天之御中主大神(あめのみなかぬし
のおおかみ)とも大いに関連がある。
この後、水天宮に「響和堂」の名でお酒を奉納しようと用意していたので、
この繋がりに、なんとなくわくわくしてきた。
熊本・幣立神宮、飯田橋・東京大神宮、日本橋・水天宮、そして目黒・大鳥神社
の自分が特に大事に思ってお参りしてきた神社には、いつも宇宙根源の神さまが
いらっしゃる。
さぁ、水天宮に行こう。
と車を走らせていると、丁度、高輪あたりを通りかかった時に、もうひとつ
大事な立ち寄る所があったと思い立った。
高野山東京別院だ。空海さまに会いにいこう。

神道の神さまの名前が出てきたかと思ったら、今度は、仏教かとアヤシク思わ
れるかもしれないが、私は特定の宗教の信仰はないので、神道も仏教も関係ない。
ただただ「みんなが幸せになりますように」と世界平和を祈るだけだ。
だから、特に神さまの「気」を感じる所なら、キリスト教だろうがなんだろうが、
思わず手を合わせたくなる。真に守り導いてくださる神さまなら、どんな宗教で
あろうと、世界中の神さま総動員でご加護を戴きたいし、宇宙創造神は唯一の、
同じ存在であるはずだ。
さて、この高野山東京別院は、都営地下鉄高輪台駅から徒歩5分、JR山手線品川駅
から徒歩10分の立地にあるが、いつ行っても本当に静かなのである。
勤務地の五反田からこれまた至近にあり、時折、仕事の車移動の合間に立ち寄る
と本堂には誰もいないことが多い。とても気持ちがよく、心を落ち着かせるのに
最適な、私の大好きな場所だ。
この日は土曜日にもかかわらず、参拝する人の姿はなく、私ひとり。
護摩木に「世界平和」と書いて、ろうそくに火を灯し、靴を脱いで、本堂にあが
る。中央の空海さまの像の近くに座って香を焚き、手を合わせる。誰も来ないの
で、ゆっくりとお話しする。
空海さまの左には、不動明王と聖観世音菩薩、右には愛染明王と地蔵菩薩が
祀られている。それぞれにお参りをして、すっきりとした気持ちで、また車に
乗り込んだ。日本橋へ向かう。

水天宮は、お礼参りの家族連れや、妊婦さん、若い夫婦で賑わっていた。
この赤ちゃんをとりまく幸せオーラの賑わいも、高野山別院の静けさと対照的
ではあるが、とても気持ちいい。
お酒を奉納して、お下がりのお供え物とお守りを戴く。
なんだか、お参りスイッチが入ったみたいに、都内で度々訪れる大事な場所を
廻ったが、実に清々しく、よい一日になった。
さて、いつもは水天宮の駐車場に車をいれるのだが、かなり混雑していたので、
この日は道路沿いのパーキングメーターに駐めた。お参りを終えて、水天宮の
裏手を歩いていると、オレンジ色の幟が目に入った。

「お、くず餅!こんなお店、あったんだー。」
看板も何もなく、扉ガラスに「寒天 近松」と書かれているだけで、店舗と
いうより、製造卸の風情。思い切って、入ってみることにする。
「ごめんくださーい。小売りしていらっしゃいますか?」
「はーい。くず餅と寒天、どちらになさいますか?」奥からおばさまが
出てきて、優しく応えてくれた。
くず餅だけでなく、寒天がブロックで水槽に浮かんでおり、サイの目に切った
ものと、ところてんについてくれるものとある。寒天のブロックは豆腐3〜4
丁分位の大きさだろうか。

両方買うと食べきれない気がしたので、くず餅はまた今度にして、寒天を半分
サイの目、半分ところてんについてもらう。どちらも専用の木枠にいれて、
押し出すと、うまいこと切れるもんだ。おばさまがビニール袋にいれてくれて
いるのがところてん、水色の容器に入っているのがサイの目のもの。

天草を煮る釜は銅製。10円玉と同じ色に光っている。
「何年くらい前からやっていらっしゃるんですか?水天宮が好きで、よく
来るのですが、こちら側は通らなくて気がつきませんでした。」
「もう100年以上になります。昔は、この釜三つを使っていましたが、今では
作る量も減って、一つしか使っていないんですよ。」
「こういうお店は、私達がちゃんと伝えて、残していかないといけないなぁと
思います。お友達にもご紹介しますね!」
「今度、水天宮にいらっしゃる時には、是非、お電話くださいね。お取り置き
しておきますし、その時間必ず私がいるようにしますので…」と言いながら、
名刺をくださる店主の戸田道子さん。本当に気持ちよく応対してくださった。
黒蜜も合わせて購入し、家に帰って早速食す。寒天に時折ある“海藻臭さ”が
まったくなくて、上品な喉ごし。水天宮を訪れる楽しみが、またひとつ増えた。
次回は、くず餅も。
近 松 / 中央区日本橋蛎殻町2-6-1 Tel. 03-3666-5488
http://www.ic9tokyo.com/nihombashi_zkn_index.html