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響和堂Blog 『 湧玉 wakutama 』

Live「 須美杏子 シャンソンコンサート 」

12月7日(日)17:30開演、新橋・燈門( トモ ン )にて。
大好きなシャンソン歌手、須美杏子( スミキョウコ )さんのソロコンサートだ。

須美さんと初めて会ったのは、今年5月の終わり頃。
若手No.1の琵琶奏者、響和堂の水天宮奉納演奏の時にもお世話になった、
塩高和之さんのコンサート会場でご紹介いただいた。
その明るく屈託のないお人柄に魅了され、それから2週間後にあった須美さん
のライブにご招待いただいてシャンソンを聴き、感涙。以来、ファンとして、
飲み友達として、とても親しくさせていただいている。

須美さんは74歳(ライブでもご自分で仰ってるから、公表してもオッケーです
よね?)、私の母より年上だ。
実に若々しく、瑞々しく、可愛らしい少女のようなところがあって、
ステージでは粋でカッコよく、セクシーで、とても魅力的な女性だ。
べらんめぇ調になっても、ぐでんぐでんに酔っぱらっても、とてもエレガント
だ。このエレガントさは、生粋のお嬢様でいらっしゃるからか。
聖心女子学院時代、美智子皇后様のご学友であり、今もご親交が厚い。

都内高級住宅地にあるご自宅に、初めてお伺いしたのは、知り合って2度目、
最初に行ったコンサートが終わってからだった。
ライブの途中から「おい!バーボンをロックで!おかわり頂戴!」と飲み
続け、ステージが終わって帰る頃には、ちゃんと歩けない…。
そこで、私の車でお送りしたのだ。
「ちょっと上がって、お茶飲んでいって!」という言葉に甘えてお邪魔する
と、居間の中央には、なんともハンサムなお父様と、うっとりするほど美しい
お母様の写真が飾られていた。お父様がデスクに座っていらっしゃる写真に
“ただならぬもの”を感じたので、
「このお父様のお写真は、どこでお撮りになられたのですか?」と聞くと、
「あ、それね。それ、“ TIME ”の表紙に載った時のね。」とサラリと
おっしゃる。 タイムの表紙!!!
そして、更に古い時代のものと思われる隣の写真に目を移すと、
「こっちの写真は、祖父と祖母よ。祖父は世界的に有名なお医者さまで、
パリに行った時の写真ね。当時、船でヨーロッパに行くのに、随分時間が
かかりますでしょ。その間、ドレスを着ている外国の女性を見てね、祖母は
着物をほどいて、その生地で自分でドレスを作ったの。とってもお洒落な人
だったわぁ。」

それから度々お会いしては、飲んで、歌って(須美さんはカラオケは歌わない
が、私が歌わされる…そして、「ブラボォー!こんちきちょう、なんて歌の
上手い、イヤな女なんだ!あぁ、腹が立つ!」と罵られながら、さんざん
歌わされるのだ。…笑)、家に泊めていただいたりと、本当に可愛がって
くださる。
須美さんはご両親の代からの素晴らしいお屋敷にお住まいだが、実に、質素
で慎ましい生活をしていらっしゃる。無粋な贅沢や華美なところが全く無い。
「美智子皇后様もそうだけどね、わたくしたち、慎ましく生きるのが美しい
と教わってきたの。質素な暮らしが当たり前になっているから、贅沢なんて
これっぽっちもしたいと思わないのよ。」
きちんと家計簿をつけ、洗濯機は未だに数十年前の二槽式のままだし、地方に
出掛けるときも新幹線を使わずに、夜行バスに乗る。
それでも、可愛いものが大好きで、小さなお地蔵さまやテディベア、普段遣い
の食器、いろんな柄の日本手拭いを集めたり、ガブリエル・ヴァンサンの絵本
を揃えたりと、「これが、わたくしのささやかな贅沢よ。」と嬉しそうに
見せて下さる。
乳ガンを克服。もともと日劇に所属してプロフェッショナルなダンサーでいら
したので、身体のケアのために運動は欠かさず、今は太極拳もこなす。
そして、何より見習わなければと思うのが、実に美しい日本語を話されるこ
とだ。

さて、日曜日のコンサート。
須美さんは、風邪をひいてしまっていた。
「50年間歌ってきて、風邪で声が出ないのは初めて。本当に情けなくて
今すぐ家に帰りたいくらい…。」と意気消沈、悲痛な面持ちでステージに
立った。が、プロとしてのプライドは、すさまじい。
「名も無く、貧しく、美しい、須美杏子でございます。みなさま、ようこそ
いらっしゃいました。あら、ご主人さまといらしたの?まぁ、いい男じゃ
ない!ね、わたくしもね、すごくいいわよ。うふっ、奥様には内緒で、どう?」
から始まって、曲の合間のトークでは、客席から笑いが絶えない。
確かに歌うと声が何度もかすれる所があるが、いつもにも増して歌の中の
台詞の部分は気迫に満ち、その圧倒的な表現力に何度も涙が頬をつたう。

「行かないで。ね、お願い、行かないで。…追いかける女がみっともない
ってことはよくわかっているわ。でも、愛しているの。…お願い。
行かないで。…行かないで。…行かないで。行かないで!」
せつなさに胸が苦しくなる。
目の間に存在する、芸術のかたまり。
美しい。

全20曲とリクエスト2曲歌って、拍手喝采。
案の定、続けざまに飲んだバーボンロックで、お客様が帰ったあとは
まともに歩けない。
「はいはい、映美ちゃんと一緒にお家へ帰りましょうね!」と送っていく。
メガネがない、家の鍵がない、と大騒ぎしながら、無事に家に入ると、
「ね、泊まっていく? 泊まれないの? 今度はいつ泊まりに来る?」と、
本当に可愛らしい人だ。

翌日には、
「昨日は、ごめんなさい。わたくし、なにも憶えてないの。ひどいわね。
ご迷惑かけてしまって。あなたがいなかったら、きっと、わたくし、
生きていなかったと思うわ!」と電話が入る。
大丈夫、いつもちゃんと送ってあげるから。
いつも大切に想っているから。
これからもずっと、ずっと、歌い続けてね。
by kyowado | 2008-12-11 14:53 | いろいろ…観る