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響和堂Blog 『 湧玉 wakutama 』

曹洞宗大本山 総持寺「 拝観 点心 」

数ヶ月前、映画館の上映予告編に “ いい声 ” が響いてきた。
「あ、勘太郎クンだ。おぉ “ 道元 ” 演るのですか…。有紀ちゃんも出てるし、
観に行こうかな…」
現在公開中の高橋伴明監督映画「 禅 ZEN 」である。
20年位前から見始めた歌舞伎は、特に中村勘三郎(当時勘九郎)さんのものを
観ることが多く、勘太郎クンは小さい時から成長を見続けている役者だ。
また、内田有紀ちゃんは、私が現在の会社に入る前に、彼女のファンクラブサー
ビスの仕事を手掛け、歌手デビューから約3年間、人気絶頂のアイドル時代に
月2回のペースでインタビューとファンへのメッセージ録音をずっと行っていた
縁がある。
この二人が主演とあっては、観ないわけにはいかない。さて、いつ行こう…と
思っていると、知人M氏から「映画「 禅 ZEN 」の公開を記念して、横浜市鶴見
にある曹洞宗大本山「総持寺」ツアーを企画しました。」とご案内が。

曹洞宗は、今から800年前の鎌倉時代に、高祖道元禅師が永平寺を開山し、
四代目の太祖瑩山禅師(たいそけいざんぜんじ)が総持寺を開山して、一層
盛んにしたと言われている。
総持寺は、石川県能登の地に開かれたが、明治31年に起きた大火事で焼失した
伽藍を復興する際、これからは世界に開かれた地での教化活動を、ということで
現在の横浜市鶴見に移転した。8万坪の敷地に多くの諸堂が建てられ、修行僧を
はじめ約200名がお勤めに励んでいるそうだ。その諸堂を、修行僧の説明を聞き
ながら1時間かけて「拝観」したあと、「点心」精進料理を戴くという企画である。

さて、精進料理といえば、その基礎を築いたのは道元禅師である。
道元が記した「典座教訓」は、世界で初めて料理について書かれた書物とも言わ
れており、調理法や料理をするときの心構えなど、典座の仕事が詳細に説かれて
いるそうだ。
總持寺では修行僧が料理を作る。坐禅や作務(掃除)と同じように、料理を作る
ことも、食べることも仏道修行のひとつとされているからだ。
その料理を、10名以上の団体なら食することができるという。ならば10人集め
て「拝観点心」しよう!ということで、これは個人では体験できない面白い企画
だと参加することにした。

2月1日(日)11時、総持寺の総合受付所である香積台にて待ち合わせ。
女性9名・男性1名の総勢10名、私たちを案内してくれるのは、なかなかのイケ
メン僧侶(イケ僧と呼ぶらしい)、20代前半の端正な顔立ちの修行僧だ。
まずは、寺の東部と西部を結ぶ長廊下「百間廊下(ひゃっけんろうか)」へ。
この長い廊下は、毎日の行のひとつとして水拭きが行われているため、まるで
ワックスがかけられたかのように、美しく磨き上げられている。
「この廊下の板は、何という木が使われているのですか?」
好奇心旺盛な私の友人が質問をすると、そんなことを聞かれたことがなかった
ようで、
「あ…、いや…、申し訳ございません。板の材質までは存じあげません…。」
とあせった様子。
「余計な質問しちゃダメよ。真吾クン困ってるじゃない。」
と、すかさずイケ僧の名札でフルネームをチェックして、私が声を掛けると、
真吾クン、可愛い笑顔。
余計な質問はダメよねといいつつ、堂内を案内してもらう間中、
「ね、お休みあるの? え? 無し? テレビも無し? 携帯も無いの? 
 もちろんデートも無し?」
「実家はお寺? よりによって、一番キビシイ曹洞宗のお寺に生まれちゃった
 のねぇ。つらくない?」
などと質問しながら、修行僧の暮らしぶりを聞いて、感服する。

修行僧は腕時計を持たないため、時間は全て、鐘の音で知らされる。
毎朝4時起き。鐘を鳴らしてみんなを起こす当番の僧は、2時半に起きるそう
だ。一応目覚まし時計をセットするが、起きられないので、夜警に起こしても
らう。支度して、各所の電気をつけ、時間になると手にした鐘を振りならしな
がら廊下を駆け抜け、みなを起こしていく。
就寝時間は21時だが、夜遅くまで勉強しないとついていけないので、だいたい
寝るのは23時か0時になる。それで毎朝4時起きは、かなりつらいことだろう。
もちろん個室などなく、大僧堂という大きな座禅堂で、みなで寝起きする。
与えられたスペースは、畳一畳、棚ひとつと座禅用の丸い座布。小さな棚には
布団と身の回りのもの全てが入れてある。 “ 起きて半畳、寝て一畳 ” と言わ
れるが、起きて布団を上げると、半畳の中で、食事をとり、座禅を組む。
基本的に休みはなく、実家の寺から法事が忙しい時に帰らせてくださいと
いう依頼書が来た時にだけ、帰省が許される。それも長くて7日間。長くなる
と罰がくだるとか。
修行の期間は、最低でも半年、通常4〜5年だそうだ。実家が寺の、跡取り
僧侶だけでなく、サラリーマンを辞めて入る人などもいて、年齢層はさまざま。
「最初は正直、きついと思いましたが、慣れてくるとそれがあたりまえになり
ますし、仕事がとても多いので、辛いなどと言っていられないのです。」と
微笑む真吾クンの顔は、実に清々しい。
肉無し、女無しの規則正しい生活が、こんなピカピカのお肌と凜とした風情を
生むのであろうか。拝観している私たちの脇を、修行僧はいつも小走りにパタ
パタと行き交っていた。

高さ36メートル・畳千畳の大祖堂、紫雲台の美しい襖絵と庭園など、説明を
受けながら一巡して、約1時間の拝観終了。三松閣にて昼食だ。
曹洞宗大本山 総持寺「 拝観 点心 」_c0173978_133299.jpg

戴く前に「五観の偈(げ)」という食事の偈文を、みんなで唱和する。
そして、飯椀を親指・人差し指・中指の両手6本指で持ち(薬指・小指は不浄と
された)、額の上まで掲げて、感謝の「いただきます」をしてから食する。
私には、塩分も程よく、すべてとても美味しい味付けで大満足だった。

あとで総持寺のホームページを確認すると、これまで典座老師(食を司る僧侶
のこと、お寺の総料理長)を中心に行われていた精進料理教室が、老師退任の
ため本年1月21日をもって終了と記載があり、また「拝観点心」の案内も削除
されていたので、後任が決まるまで、この拝観+食事のプランは実施されない
のかもしれない。なんとタイミングよく体験できたのだろう!

11時から13時までの2時間、禅の心に触れ、味わう、貴重な体験ができた。
臨済宗・曹洞宗ともに禅寺のご住職とは昔から深いご縁があるのだが、修行僧
の話は聞いたことがなかったので、これもまた楽しいひとときであった。
映画「 禅 ZEN 」、俄然観たくなる。

さて、ここでみんなと別れて、急ぎ足で鶴見駅へ向かう。
お次は14時迄に、伊勢神宮に繋がる銀座のギャラリーへ…。

by Emi Nakamura
by kyowado | 2009-02-04 02:49 | いろいろ…観る